もうごめん、なんて言わないで
私は以前、旭先生とお付き合いをしていた。
開業時はまだスタッフの人数も少なくて、仕事終わりはよくみんなで食事をした。
八つ歳上の彼はあまり目立つタイプではなく、端っこでひっそりしているような人。
高身長とは言えないが細くて色白でひょろひょろとしている、もやしみたいな人、というのが第一印象。
印象に残るタイプではなかったけれど、患者さんからは好かれるし、新人だった私が困っていると一番に助けてくれる優しい人だった。
いつの日からかアプローチを受けるようになり、ふたりでいることが多くなった。
そのうち、自然と心惹かれていった。
「また食事に行かない? 昔みたいに」
気づけば静かになっていた真空は私の胸に顔を押し当て気持ちよさそうに眠っている。
仕事仲間の関係に戻りたい。
四年前、別れを告げたのは私の方だった。
それからはプライベートで話すこともなくなった。父の紹介で入ったクリニックだという手前、安易には辞められず同じ職場で働き続けているけれど、正直少しやりづらい。
一年前に育休を経て職場復帰してからようやく慣れてきたところ。でも、彼とだけは向き合うことができないままだった。
「あの……」
「無理にとは言わないけど、もし良ければ」
返答に困っていると、真空が腕の中でぐずり出す。
今にも大声で泣き叫びそうな顔を見せるもので慌てて床におろし、お気に入りのおもちゃを握らせた。