もうごめん、なんて言わないで
「高校の同級生」
「うそお、あんまり綺麗だから芸能人かと思った」
なにを見せつけられているのか。
かわいらしい声でわざとらしいほどのリアクションをとり、ベタベタと彼に触れる。
俊介は居心地悪そうにこちらを気にしながら距離を取ろうとするも、親しげに近づく彼女は離さなかった。
気まずい沈黙が流れ、次第に俊介の視線が我が子を捉える。その度にヒヤヒヤした。
私を避けるようにいなくなったあの日からずっと連絡を待っていた。
でも音沙汰なく年月は過ぎていき、三年も経った。
きっと、朝目覚めて現実に戻ったら一夜の過ちを後悔したんだろう。そう思ったら、妊娠が分かったときも到底言えるはずはなく黙って真空を産んだ。
俊介の知らないところですくすくと育った子供を、こんな形で引き合わせることになるなんて想像もしていなかった。
「えっと、その子って……」
「あっ、思い出した! ラスベガスの写真にいた人じゃない?」
俊介の言葉を遮るように飛び出したワードが動揺を誘う。
ふたりして目を見合わせ、すぐにでもこの場から逃げ出したくなった。
「あれ、なにか変なこと言っちゃいました?」
「香織、ちょっと黙ってて。困ってんだろう」
「えー、なにが? ただの会話じゃない」
香織——。
そんな風に呼ぶ仲なんだと、胸が苦しくなる。