もうごめん、なんて言わないで
「白河さん、受付にお客様です」
とある日の昼下がり。
午後の診察が始まってすぐ、受付の女の子が二階の事務室まで呼びに来た。
「お客様? 患者さんじゃなくて?」
「白河さんいますかって尋ねられたので……多分。すみません、凄いイケメンで慌てて呼びにきたから、名前聞きそびれました」
半信半疑になりながら階段を下りていく。
職場まで訪ねてくるなんて一体誰だろう。頭をフル回転させた。
「え」
一階に下りたら見覚えのある後ろ姿があり、小さく声が漏れた。
振り返る彼と目が合い、思考が停止する。
一週間前に会ったばかりの俊介の姿があった。
「なんで」
「歯の治療?」
なぜか疑問系で返してくるのも訳が分からず、突然の状況に混乱した。
「美亜ちゃん、ちょっと奥の部屋代わってもらっていい?」
「あ、今……今行きます」
なにも知らない同僚に呼ばれてしまい、あたふたしながら仕事に戻る。
患者としてきたなんて絶対に嘘だ。
目的が分からず、まるで目の前のことに集中できなかった。
治療の補助を終えるなり急いで受付に戻ったが、待合室を覗いてみても彼の姿はどこにも見当たらなかった。