もうごめん、なんて言わないで
「ねえ、さっきの人どうした? 私のこと呼んでた」
「青山さんですか? それならさっき二階に案内しましたけど」
「二階⁉︎」
驚きのあまり思わず大きな声が出る。
彼女の手元には【アオヤマシュンスケ】と書かれた診察券があった。
「え、いけなかったですか……」
「ううん! 全然大丈夫」
不安げな顔をされてしまい慌てて笑顔で誤魔化したものの、彼が本当に診察を受けていくなんて思ってもみなかった。
上の様子が気になって、階段の手すりに寄りかかり二階を見上げる。
診療スペースの担当は日替わりで変わり、よりにもよって今日二階にいるのは旭先生だ。
空港での光景を思い出す。
お互いは顔を合わせたわけじゃないからきっと認識なんてしていないだろうが、なんとなくソワソワする。
ふたりが診察室で話をしているのかと想像したら、妙に変な感じがした。
受付の奥のテーブルに座ってから十五分ほどが経った。
ようやく旭先生がカルテを持って下りてきて、同時に俊介が受付の前を横切って行く。ちらりと目があった。
そばに立つ先生はいつもとなんら変わらない様子でいる。
俊介のことは気づかれていないようだ。
支払いを終えた彼が小窓越しに目で合図してきて、なんとなく空気を察しカーディガンを手に外へ出た。