もうごめん、なんて言わないで


 診療時間を終えてスタッフたちが続々と帰っていく中、私は二階の備品室にこもっていた。

 彼は本当にただ謝りにきただけだったのか。それならメッセージひとつですむはずなのに、どうしてわざわざ訪ねてきたのか。

 頭の中をそんな疑問がぐるぐると回り続け、頭が痛くなってきたところだ。


「はあ」
「帰らないの?」


 急に現れた旭先生の声でびくっと体が跳ねた。


「棚卸を少しやっちゃおうかと思って」


 咄嗟に持っていたバインダーを見せて答えると、開けっ放しの扉に寄りかかる彼が困ったように笑う。


「まだ二週間もあるのに、ちょっと早すぎるんじゃない?」
「あー、そうですか?」
「昔から変わってないね」


 近づいてくる彼は棚に並んだ薬のボトルを手に取って、見透かしたように微笑んできた。


「考え事があると色々整理したがるの癖でしょ」


 顔が熱くなった。
 バインダーで顔を隠すとひょいっと盗まれ、目が合った。


「白河さん、分かりやすいよね」


 私はムッとしながらそばにあったダンボールを引っ張り出す。意味もなく中身を整理し出したら、彼はなにも言わずに距離を置いて隣に並んできた。

 部屋の中はガザガサと袋の擦れるような音だけがする。


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