もうごめん、なんて言わないで
「そういえば、お昼くらいに青山さんって男性が診察にきたと思うんですけど」
ずっと気になっていた二階の出来事を聞こうと、探り探り様子を伺う。
なにを話したんですか?
なにか言ってましたか?
でもそこに続きたい質問はどれを選んでも唐突で怪しい気がして、言葉に詰まってしまった。
「えっと」
「あのイケメンの彼ね。たしか、空港で会ってた」
予想に反し、彼は手を動かしながらあまりにもあっさりと口にした。
「気づいてたんですか」
「うん。パイロットだって言ってたし、まあなんとなく」
でも、そう言ったっきりなにも聞いてはこなかった。
驚いて、気が抜ける。
置きっぱなしになったままの脚立へ、すとんと腰をおろした。
「実は彼……」
「無理に話さなくていいよ」
意を決して打ち明けようとしたら、途端に彼の声に遮られる。
「彼のこと聞きたくてきたわけじゃないから。ただ勝手に傍にいたかっただけ」
ストレートな言葉が胸に刺さった。
「いや、違う。その……話聞いてほしいとかだったら全然聞くんだけど。無理してるのかと思ったから」
さっきまでの落ち着きが嘘のように急に焦り出す。