もうごめん、なんて言わないで


「やっぱりだめだな。スマートにできない、かっこ悪い」


 照れ臭そうに頭をかきながら笑う旭先生を見て、懐かしい感覚に包まれる。自然と笑みがこぼれていた。


「旭先生ってそういう人でしたね」


 別れてから気まずくなり、真空を産んでからは尚更顔を合わせずらくなった。ふたりっきりになるのもずっと避けてきた。

 だから忘れていた。

 彼はいつも私のことを一番に考えてくれる心底優しい人だった。


「あの人、真空の父親なんです」


 なんでも受け止めてくれるような気がした。


「でも向こうはなにも知りません。私がひとりで育てるって決めたから」


 旭先生がどこまで予想していたのかは分からない。

 一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに真剣な顔に戻った。


「どうして?」
「理由は色々あったんですけど……彼、結婚するらしくて。このままなにも知らない方がいいと思うんです」


 自分に言い聞かせるように一点を見つめながらぐっと唇を噛む。改めて現実を受け入れたら、苦しくてたまらなくなった。


「ごめん」


 突然、旭先生にそっと握られた。

 どうして謝られたのかも分からないまま顔を上げたら、目の前でしゃがみこむ彼に見つめられどきっとする。


「本当は食事から始めて少しずつって思ってたんだけど、今言いたい。僕の気持ちはあの頃から変わってないから」
「先生?」
「一緒に福岡へついてきてほしい。君と真空くんは僕が支えたい」


 あまりにも真剣に見つめられ、目が離せなくなった。


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