もうごめん、なんて言わないで
「杏奈、だれか来たの? 宅配便?」
ゆっくり寝返りを打ち、布団から顔だけ外に出した。
「じゃないんだけど……いい?」
しかし部屋にいたのは杏奈ではなく、旭先生だった。
慌てて飛び起き、壁にぴったり背中をつける。
「熱出して休みだって聞いて。ちょうど午後休だったから寄ってみたんだけど、押しかけるみたいで迷惑だったよね」
「いえ。私こそこんなすっぴんですみません」
もぞもぞと布団をたぐり寄せ、ボロボロの自分の姿を思い出し必死に顔を隠した。
「それは見慣れてるかもな」
彼は冗談っぽく笑う。
自然と空気が和んだところで部屋の扉がノックされた。
「ごめん美亜、買い物行こうと思うんだけど真空置いてってもいいかな」
杏奈は扉の隙間から遠慮がちに顔を覗かせる。
真空もマネしてひょっこり頭を突き出した。
「うん、全然平気。真空おいで」
可愛らしい光景に微笑みながら手招きすると、よたよたと近づいてきた。
「じゃあ僕が」
すかさず立ち上がった旭先生が我が子を拾い上げる。人見知りをまるでしないから彼の腕の中でも大人しく、ふたりは顔を見つめあって笑っている。
小さく手を振る杏奈はそっと扉を閉めて出ていった。