もうごめん、なんて言わないで
3.真実


 プロポーズを受けてから一ヶ月が経った。

 一日の診療を終えて帰っていく同僚たちを見送り、受付の中で残っているカルテの棚を整理している。


「白河さん」


 小窓から顔を出した旭先生に呼ばれた。


「もう終わりそう?」
「あ、ごめんなさい。あと五分くらいで」
「了解。そしたら先に車行ってるね」


 あれから私たちの関係は少しだけ進展を迎えた。
 付き合ってはいない。

 でも、ただの同僚というのも少し違う。

 仕事終わりに食事をしたり、休みの日に真空と三人で出かけたり、一緒に過ごす時間が増えていき徐々に距離が近づいた。

 昔付き合っていた頃のような関係に戻りつつある。


「ずっと気になってたんだけどさ」


 自動ドアの閉まる音が聞こえた途端、裏の資料庫にいたユキさんが飛んできた。


「旭先生とはどうなってるの?」


 ニヤつきながら聞いてくる彼女は、開業当時から一緒に働いている歯科衛生士で年は私より三つ上の先輩だ。


「なにもないですよ」
「隠しても無駄。昔はよく一緒にいたのに急に話さなくなったかと思えば、また最近仲良くなって。絶対なんかあったでしょう」


 じっと見つめられ、だんだんと目を逸らした。

 隠すほどの関係でもなく、こそこそ会っていたわけでもないから、なんとなく噂になっているのは気づいていた。

 でも前に付き合っていたのを知っている人はいなくて、どこからどう話せばいいかと苦笑いを浮かべるしかなかった。


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