もうごめん、なんて言わないで
「安藤から聞いた」
続く言葉に耳を疑う。
高校時代、俊介の話をすると決まって『あいつはムカツク』と機嫌を悪くし、必要以上に毛嫌いしていた。
そんな慶タローが俊介と連絡を取っていたなんて驚き、なにより口止めしていた真実をよりにもよって張本人にバラしてしまうなんて理解ができなかった。
「だったらあの先生は? 恋人? 子どもの父親?」
口調がだんだんと強くなる。
せきを切ったように疑問が次々と飛び出してきた。
「そんなの知ってどうするの」
真空はあなたの子どもです――。
そう言えればどれほど楽だろうか。何度も心の中で葛藤したけれど自制心が働く。
真実を隠すためにその場しのぎの嘘をつくこともできなくて、精いっぱいの強がりを見せた。
「どうするって」
「関係ないから」
私はとことん突き放すしかなかった。本当の想いを心の奥底へしまいこんで、やっと彼の顔を見られた。
こんなにも近くにいるのに、遠い距離。
「お幸せに」
このまま居続ければ今にも気持ちが揺らぎそうで、思ってもいない言葉を口にした。
今更、私がどんな人生を送っていようと、だれと付き合って結婚しようと、俊介にはどうでもいいことのはずだ。
それなのにわざわざ真実を確かめるためだけに職場まで会いにくるなんて、期待してしまう。
気を抜けば、また昔のように都合良く希望を持ってしまいそうだった。