もうごめん、なんて言わないで
「美亜、なんかあった?」
翌日仕事から帰って夕食を食べていたら、お風呂からあがった杏奈が不思議そうに顔を覗き込んできた。
彼女は私の事情をすべて知っている。
なにかあるたび報告し相談にのってもらってきた。
俊介との過ちも、真空を妊娠したときも、ひとりで育てると決めたときも、大事な出来事のそばにはいつも杏奈の支えがあった。
しかし、昨日のことはどう話せばいのかわからずにまだ言えていない。
私は黙ったまま、携帯の画面をつけてテーブルの上に置いた。
首をかしげながら覗き込む彼女に見せたのは、着信履歴。
婚約解消を聞いてから、もう二度も俊介の名前が表示されていた。
「え、青山くん?」
驚く彼女にこくりと頷く。
当たり前の反応だ。
昨夜は旭先生と食事に行くと言って真空を遅くまで見てもらっていたのだから、まさかここで俊介の話をされるなんて微塵も思っていなかっただろう。
「なるほどねえ。てっきり旭先生となんかあったのかと思ってたのに、ため息ばっかの理由はこれかあ」
「本当なに考えてるんだろうね」
ふたりで向かい合い缶ビールをあけた。