もうごめん、なんて言わないで
「近づきたかったからだよ。話す口実が欲しくて、美亜の特別でいたかった」
ラスベガスで『話したかったからじゃん』なんて、さらりと受け流されたのを思い出す。
今になってそんな風に言うなんてずるい。
「どうして今更、そんなこと言うの」
声を振るわせ、むしろ腹が立って背を向けた。
隣の部屋で敷きっぱなしにしていた布団へ真空を寝かせる。
気持ちよさそうに寝息をたてる無防備な姿に笑みがこぼれ、そっと頭をなでた。
一度冷静になりリビングを覗くと、俊介がソファで私を待っていた。
「もうなにも偽りたくない」
私はどうしようもなくあの顔に弱い。
拒むことなんてできなくて、迷いながらもこくりと頷いた。
ぎこちなく隣に並んで座ったら、彼の口からは私が知らなかった真実が語られた。
俊介と香織さんは生まれたときからの許婚だった。
お父さんは絶対的存在で逆らうことなんてできず、その結婚が会社のためだと言われたら受け入れるしかなかった。
それが自分の運命だと彼はずっと諦めてきた。
付き合ってもいずれ別れる未来しかないのなら、いっそ友達のままでいた方がいい。
それが彼の出した精一杯の答えで、一度目の『ごめん』の理由だった。