もうごめん、なんて言わないで
【ごめん、仕事が入って行けなくなった】
つい一週間前、みんなの元に届いたメッセージが思い出される。
家のソファで寝そべって、携帯を持ったまま天井に向かって腕を伸ばす。
そのメッセージを見つめながら、心はホッとしたような、悲しいような……よく分からない感情が渦巻いていた。
機内で騒ぐみんなの中にも、杏奈と駒井くんのじゃれ合いの中にも、いつも中心で笑っていたはずの彼がいないだけで物足りなさを感じる。
あの頃いたメンバーが全員来ているわけではないのに、彼の存在はいつまで経っても消えない特別なものだった。
「美亜どうかした?」
意識はどこか上の空で、不思議そうな杏奈の表情を見て慌てて首を振る。
「ここ、ほんと暑いね。ぼうっとしちゃった」
笑顔で誤魔化し、見え隠れした感情には無理矢理ふたをした。
迎えのリムジンでターミナルへと移った。ロビーに出て、大きなトランクを引きずりながらぞろぞろと歩いていく。
「なあ、本当にコマが全部用意したん?」
全員が感じていた疑問を、前を歩いている誰かが口にした。
「そういやあ、金ないとか言ってなかったっけ?」
「もしや相手金持ち?」
「え、玉の輿ってやつ?」
ひとりの発言を皮切りにみんながじわじわと詰め寄っていく。後ずさる駒井くんが口元を引きつらせていると、なにかに気づいたような顔をしてニヤリと笑った。
「仕方ないなあ。もう少し引っ張ろうと思ってたのに」
彼の意味深な発言に顔を見合わせる私たちは、ロビーに並ぶソファへと連れていかれる。
「サプラーイズ!」
半信半疑で近づいた途端、駒井くんの大きな声にビクッとする。同時にソファに座っていた男性が少しうねった黒髪を揺らし、驚いた顔をこちらに向けた。
一瞬にして、頭の中が真っ白になる。えっ、とかすかに声が漏れた。