もうごめん、なんて言わないで


「寝たよ」


 奥の部屋から俊介が優しい笑顔で現れる。


「ありがとう」


 食器を洗いながら、まだ信じられない光景にぼぅっとする。出しっぱなしになった水が勢いよく泡を散らした。

 先程まで私が作った夕食をすぐそこのテーブルで囲んでいた。

 我が子だと知り、どう思っているのかは分からないけれど、俊介は真空を大事そうに抱いたまま離さなかった。

 成り行きで家族みたいな時間を過ごしている。

 それがどういう意味なのか、聞きたいけれど踏み込めずにいた。

 流し台にいた私の隣に迷わず立った彼は「手伝う」と言って腕をまくった。


「絵本読んであげたのなんて初めてかも」
「最初意外と緊張しない?」


 くすくすと笑い合う私たちの時間はあっという間で、ちょうど十九時を過ぎていた。


 「なんか、あれだな」


 シンクが綺麗になると、ぼそっと俊介が言う。


 「自分の子供だって分かった途端、なんか余計に可愛く思えてくる」


 耳を赤くして恥ずかしそうに俯く横顔に、思わず口元が緩んだ。

 ニヤつく私に「なんだよ」と軽く水を飛ばしてきて、そんなやりとりさえ愛おしかった。

 でも、同時に罪悪感を覚える。


「そういえば私、ちゃんと言ってなかった」


 改まったように言うと、俊介と目が合い居心地悪くソファに移動する。

 心配そうに近づいてきた彼のそばで力なく座りこんだ。


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