もうごめん、なんて言わないで

「そうだ、次のフライトはいつから? 休みの間にもう一回くらい会えるかなって」


 お互い休みが不定期だとなかなか会うのが難しい。彼が国際線のフライトに出たら何日も会えなくなってしまうから、少し寂しさもあった。

 別れ際、彼の服の袖をつまんだ。


「あー、しばらくはないと思う。日本にいるよ」
「え、そうなの?」


 反射的に喜んで顔をあげた。

 俊介は私を見て、ふっと笑う。恥ずかしくなって目を逸らしたら、頭上から「そうだ」と声が聞こえてきた。

 彼は急に携帯をいじり出す。不思議に思いながらじっと様子を伺っていると、私の携帯から音が鳴った。


「見て、送っといたから」
「ん?」


 携帯を見るように、くいくいっと指で合図される。

 鞄に手を突っ込み半信半疑でメッセージを開いてみた。俊介からどこかの位置情報が送られてきていた。


「これどこ?」
「うちの住所。いつでも来て」


 平然と言う彼は革製のキーケースから鍵を外し、そのまま差し出してきた。


「え、いいの?」


 合鍵だ、と意識したら受け取る手が震えた。


「うん。いずれ真空と三人で住みたいって思ってる」


 にこっと微笑む優しい笑顔に目を奪われ、幸せの塊を手の中で握りしめる。

 好きな人からもらうのがこんなにも嬉しいなんて初めて知った。


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