もうごめん、なんて言わないで
「俊介!」
少し遅れて、彼を呼ぶ声が何重にもなってロビーに響き渡る。
芸能人にでも会ったかのように駆け寄るみんなの後ろで、私は呆然と立ち尽くす。
あまりにも想定外な状況で動けなくなり、ドキドキする胸の高鳴りは抑えようにも抑えられなかった。
「七年ぶりに集まるのに、俺がいないとかないでしょ」
冗談交じりに言う彼は「かっこつけやがって」とみんなに茶化される。
まんざらでもなく顔全体でクシャッと笑う表情は昔となにも変わっていなかった。
「でもごめん、式には行けなくてさ。先輩に無理いってフライト代わってもらったから、明日の夜にはロス戻るんだ」
瞬時に囲まれすぐに輪の中心になった青山俊介は、父親が経営する大手航空会社『Sky Connect Japan』――通称SCJでパイロットをしている。
家柄のこともあってか、当時から目立つ存在だった彼の噂は地元のネットワークで瞬く間に広がり、誰と会っても決まって一度は話題にあがる。
『俺、パイロットになるのが夢なんだ』
『白河のこと絶対乗せてやるから』
急にいつかの記憶がフラッシュバックした。
アーモンドのような綺麗な瞳が印象的で、かき上げている前髪は端正な顔立ちを引きたたせる。笑うとできる頬の窪みは私が一番好きな場所。
より一層かっこよくなっていた俊介は高校時代ずっと想い続けていた人だった。
「それじゃバレバレだよ」
無意識のうちに視線は俊介にしか向いていなかった。耳打ちしてくる杏奈の声にハッとして横を見たら、不敵な笑みを浮かべていた。