もうごめん、なんて言わないで
翌日、スタッフが全員帰ったあと、旭先生はひとりで診療室に残って患者のレントゲン写真と睨めっこしていた。
ゆっくり近づいていくと、彼がこちらに気づいてそっとパソコンを閉じた。
「早いね、もうこんな時間か」
お互い目を合わせられず、ぎこちない空気が漂う。
私はショルダーバッグを肩に掛け直し、持ち手を握りしめた。
「ごめんなさい」
やっとの思いで絞り出した言葉に、うろうろと居場所を探そうとする彼が足を止めた。
「参ったな。覚悟してきたつもりだったんだけど」
弱々しく微笑み、瞳がこちらを向いて思わず目を逸らしていた。
「ごめんなさい。旭先生の気持ちには応えられません」
たまらず下げた頭は重かった。
曖昧な態度をとっておいて、結局彼を傷つけることになった。なにを言われても仕方ない覚悟はしていた。
「私……」
「白河さん」
すると、旭先生がそっと肩に触れてきた。
恐る恐る顔を上げたら、なぜか穏やかな表情で見つめられている。