もうごめん、なんて言わないで

 ずっと、パイロットになるのが夢だった。それが今、私のせいで奪われようとしている。

 絶対つらいに決まっているのに、私はいつも自分のことばっかりで彼の異変になにも気づいていなかった。

 気づこうともしていなかった。

 旭先生はしゃがみこんだままの香織さんに手を差し伸べようとしたが、「触らないで」と突っぱねる声と共に手を振り払われる。

 そのまま立ち尽くす私をキッと睨みつけてきた。


「なにも知らないのね。本当おめでたい人」

 空港で見た可愛らしい顔立ちが嘘のようだった。

 心底恨まれているのが、ひしひしと伝わってくる。誰かにこれほどまで憎しみのこもった目を向けられるのは初めてだった。


「知らないでしょ、俊介くんがどれだけ頑張ってパイロットになったか。あなたは傍にいなかったものね」

 血が滲みそうなくらいに唇を噛み締めて、立ち上がる彼女の表情にぎょっとする。

「彼の前から今すぐ消えてよ!」


 香織さんが叫びながら、ハンドバッグを振り上げるのが見えた。

 スローモーションになって、こちらへ一直線に向かってくるのがわかり、ぎゅっと目をつぶった。


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