もうごめん、なんて言わないで


 すぐに鈍い音がしたものの、衝撃はない。

 薄目を開けてみたら、旭先生の背中がすぐそこにあった。

 そのまま彼女はなにも言わずに立ち去っていき、私は放心状態のまま動けずにいた。


「大丈夫? 顔、真っ青だよ」

 旭先生の声を聞いて顔を向けたら、彼の腕が赤くなっているのに気づいた。

「それ」

 小さな擦り傷は、きっと私を庇ってくれたときにできたもの。

 触れようとすると、彼は慌てて腕を引っ込めた。

「ああ、大丈夫だよ。ちょっと当たっただけ」

 心配かけまいと口角を上げて話す彼にただただ申し訳なくなる。

 残っている気力だけで、すみません、と声を出した。


「家まで送ってくよ」
「いえ、ひとりで帰れます」

 これ以上迷惑はかけられない。

 ろくに目も合わせずに帰ろうとしたら、引き留めるように腕を掴まれ、旭先生の顔が目の前に現れた。


「心配だから。同僚として、ちゃんと送らせて」

 真剣な表情の奥に優しさを感じる。


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