もうごめん、なんて言わないで
気持ちに応えられないと断ったばかりで甘えられるはずがないのに、図々しくも頷いている自分がいる。
その優しさにすがるしかないほど、なにも考えられなくなっていた。
それから家に着くまでの記憶はほとんどない。
車のエンジン音と通り過ぎていく見慣れた景色が断片的に思い出されるだけで、気づけばマンションの入り口がすぐそこにあった。
「もう少し、適当に走らせようか?」
私の様子を察して聞いてくる優しい声がした。
でも、頭の中は俊介の顔ばかりぐるぐると回っている。マンションの方を見ながら、昨日の夜もすぐそこで話していたと思い出してしまった。
「もし、帰る気分じゃなかったら、僕は全然……」
そのとき、ハッとした。
急に運転席の方を見たら、驚く彼が目を丸くして「ん?」と声を出した。