もうごめん、なんて言わないで
「ここで大丈夫?」
「はい。あの、無理言ってすみませんでした」
私は厚かましくも、連れて行って欲しい場所があるとお願いし、とある場所まで運んでもらった。
車を降り、何度も頭を下げる。
あとから自分の言動を後悔し恥ずかしく思いながらも、彼の優しさには感謝してもしきれなかった。
旭先生の車を見送ったあと、目の前のタワーマンションを見上げる。
私は、俊介の家にきた。
昨日送ってもらったばかりの位置情報と一緒に添えられていた部屋番号を見つめながら、エントランスホールへ足を踏み入れる。
携帯を握りしめ、緊張気味にインターホンの前に立った。
「二〇〇一」
呟きながらボタンを押していくが、【呼出】に触れる寸前で怖くなった。
本能的に来てしまったものの、どう切り出せばいいのかなにも考えていなかった。
押しかけるような真似をして、本当に良かったのかと手が止まった。
自然と数字が消えた。
出していた人差し指を手の中にしまい込み、インターホンに背を向けた。
外へ出ようとすると、ちょうど入ってきた住人とぶつかりそうになった。
すみません、と避けようとしたけれど、その人は入り口を塞ぐようにして立ったまま動かなかった。