もうごめん、なんて言わないで
顔をあげると、男性がうーんと唸りながらなぜか私の顔を凝視している。
派手な顔立ちで、首元には金の細いネックレスが光っている。危険なにおいがした。
慌てて立ち去ろうとしたが、ぐっと目の前に体を入れてきた彼が不敵な笑みを浮かべてくる。
「なんで帰っちゃうの?」
わけも分からずエレベーターに乗せられた。
何度足を止めようとしても「いいからいいから」と強引な彼の力には逆らえず、あっという間に部屋の前まで引っ張られてしまった。
「あの私、小さな子供がいて。家で私の帰りを待っていると言いますか、そういうのは」
襲われる。
そう思い、部屋の前で挙動不審になっていると、ふっと笑う声がした。
「なんか勘違いしてる?」
「え?」
固まっていると、私の腕を離し持っていた鍵で扉を開け始める。そのまま振り返って、改まったように立った彼がにんまりと笑った。
「西條千早、これでも一応パイロットやってます」
「パイロットって……」
「俊介に会いにきたんじゃないの?」
突然出てきた名前にどきりとする。
つんつんと彼が指さす先には【二〇〇一】と部屋番号が刻まれていた。
連れてこられたのは俊介の部屋だった。