お姉ちゃんになった私は、毒舌クール義弟を手懐けたいので。




「甲斐田がいるから大丈夫だ」と、誰もが口を揃えて言うような存在なのだと。



「そんな先輩を前にして、なんて言ってあげたらいいのか…わかんない。ウチは優勝した。
けどそれすら嫌味に捉えられるんじゃないかとかさ…、今は入院してるらしいけど、1回もお見舞いに行ってやれてない」



夏の甲子園。

3年生にとってはすべてを懸けた最後の大舞台。


このときのために毎日練習に明け暮れて、それでやっと手にした切符は、怪我をして終わってしまったなんて。


そんなの……悔しすぎる。



「悔しい…、くやしい…っ、けど、先輩はそれ以上に悔しい思いをしてるに決まってるから…、」


「…雅、」



私たちしかいない屋上で、彼女は初めて涙を見せた。


2年A組に顔を出すたびに彼は必ず言ってたもんね。

甲子園、優勝する───って。



「きっとウチが会いに行ったら、あのひとは“おめでとう”って笑ってくれるんだ。それが…嫌なんだよ」



泣いてほしい、弱さを見せてほしい、自分の前でくらいは強がらなくたっていい。

そう思うことはきっと誰よりも相手に惚れている証だよ雅。



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