お姉ちゃんになった私は、毒舌クール義弟を手懐けたいので。
サッと、すぐにノートを閉じる。
「帰んねーの?」と聞いてくる新太(あらた)は、俺の数少ない友達のひとりでもあるクラスメイト。
ああ、そっか。
今日は半日授業、帰りがいつもより早いんだっけ。
「……いる」
玄関には俺より先に帰宅していたらしいローファーがある。
おばさんの靴は無く、もちろん父さんの靴も無い。
でも妙なくらいに静かだから、リビングではなく部屋にいるんだろうと思いながら俺はスニーカーを脱いだ。
半日授業のため、まだ昼食を取っていない。
おばさんには「コンビニで買ってくるから大丈夫です」と、昨夜のうちに伝えてあった。
「っ、…!」
ビニール袋を手下げてとりあえずリビングへ向かった俺は、幽霊でも見つけてしまったような反応をしてしまった。
いないと思っていた。
ありえないくらい静かすぎるし、前なら俺の音が聞こえただけで「ナナちゃーん?」なんて声をかけてきたような奴だったから。
ダイニングテーブルの椅子に座る背中は、どこか小さく見えた。