お姉ちゃんになった私は、毒舌クール義弟を手懐けたいので。
「アホ」
「…え?」
「アホなんだよ、すっげえ」
サンドバッグになるって言ってきたり、あんなに冷たくされといて俺の心配ばっかしてくるし、マジで冷凍パスタ毎日買ってくるし。
かと思えば、髪切って男っぽくなって「お兄ちゃんだ」とか言ってきてさ。
あれをアホって言わなかったら、なにをアホって言うんだよ。
16歳の男子高校生相手に交換ノート始めてきたり、七夕まつりでは過去イチ走らされて、友達の試合を放ってまで俺の看病に戻ってきてくれる。
何よりあの変顔は、いろんな意味でやばい。
「ほんっと、俺のことしか考えてなくてさ」
でも、あれが本物だよなって思う。
あいつを見ていると無意識にも俺は手を伸ばしてしまうんだ。
そういう気持ちを過去の俺は小山田には抱けなかったし、今の俺も小山田に抱こうとは思わない。
「…羨ましいな」
涙を拭って、つぶやいた小山田。
「そんなふうに想える相手が見つかった十波くんが、羨ましい」
「…去年の浴衣、似合ってた」
まっすぐ逸らさないで伝えると、小山田はせっかく拭った涙を意味のないものにさせてしまった。