お姉ちゃんになった私は、毒舌クール義弟を手懐けたいので。
「俺たち、結構はやくに行ったのに何も飲まず食わずで歩いてたよな」
「う、うん…っ」
あの祭りだって、俺にとってはトラウマだった。
小山田と過ごした思い出ぜんぶを消し去りたくて、その場所の近くを通ることすらそれまでは避けてた。
けど、そんな俺の手を引いてくれたのはあいつなんだ。
新しい思い出で塗り替えるんじゃなく、あいつはあいつらしさで良いものに変えてくれた。
「俺、あのとき本当はずっと牛串が食いたかったんだよ」
「ぎゅうくし…?」
「意外だろ。わりと花火とかも立ち止まって見たりもしたくてさ」
「そ、そうだったんだ…」
なにも、できなかった。
手を繋ぐことも、恋人らしく歩くことだって、小山田を楽しませてやることも。
「ご、ごめんね十波くん…っ、いろいろ遠慮ばかりさせちゃってたんだねわたし…、つまらなかったよね…っ」
「いや……救われたよ」
間違いなく救われたんだ。
小山田と出会ったことで、ほんの一瞬でも俺が救われたことは確かだった。
でも、なにも飾らない俺を見せることができた存在は───ゆらだ。
「…ありがとう。小山田」