お姉ちゃんになった私は、毒舌クール義弟を手懐けたいので。
『ごめん雅っ、ナナちゃんから呼ばれたから行くね…!待っててねナナちゃんっ、変な人についていっちゃダメだよ…!?』
“えっ、電話で呼び出し…?まじで…?ちょ、とりあえず気をつけなよ…!”
『ありがとう雅っ!甲斐田先輩もありがとうございました…!』と、聞こえてくる賑やかな声に雷への不安は消えてしまった。
雷が落ちそうな雨ではない。
大降りではあるけれど、しばらくすれば止みそうな通り雨だ。
向こう側の空はすでに太陽が出かかっている。
「…相変わらず忙しいやつ」
俺、最初のほうに“うん”って言っただけだった。
そしたら着々と会話が進んで、電話は切られて、今は一心不乱に俺がいる場所へ走って向かってんだろう。
俺は東屋のなかで、リュックから1冊のシンプルなノートを取り出す。
「…ん?」
書かれているぺージのいちばん下、クシャッとなったようなシワがあった。
急いで何かを消したような跡があって、でも消えているからよく見えない。
「…ナナ、…好……?」
そう書いてあるような気がする。
俺の被害妄想かもしれないが、その文字だけはうっすらと見えた。
“俺もゆらが好きだ。”
それだけを新しいページに書いて、これだけは今日にでも渡そうと決めた。
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