お姉ちゃんになった私は、毒舌クール義弟を手懐けたいので。
背中を向けたまま聞くことにした。
面と向かって話し合える間柄でもないから、私たちはまだ。
「字だけでも無理、吐き気がする。散れよまじで」
「……わかった、サンドバッグだ」
「は?」
「今日から私はナナちゃんのサンドバッグ!」
くるっと振り返れば、やっぱり予想どおりの“この世の終わりフェイス”……ではなく。
案外人間らしさ溢れる反応をしてくれていた。
年相応というか、ちょっと幼く見えるかも。
「だから私にはなんでも言って。ウザいとかキモいとか、そーいうのでもいいから。
私、精神は強いところがあって、そこだけが自慢なんだ」
ニッと笑って、逃げるように階段をダッシュでかけ降りた。
───次の日。
“ゆらさんとは一緒にご飯を食べたくありません。あのひと怖いです”
と、置き手紙を残して余計に部屋から出てこなくなったナナちゃん。
「ゆら、あなた……、七兎くんに何したのよ」
「……ナニモシテナイ。ホントニ、ナニモ」
サンドバッグ作戦、決行前にまさかの失敗に終わり。
これが(とくに私には)懐いてくれないナナちゃんなのだと実感だけが残り。
ひとつ年下の男の子との同居生活は、こうして不安すぎる幕を開けたのだった。