お姉ちゃんになった私は、毒舌クール義弟を手懐けたいので。
「んん…っ、ん…!」
本当にされるなんて思っていなかった。
また今回もナナちゃんのために必死になってる私を見て、楽しんで遊んでいるような気持ちなんだろうなって。
3.141592……、
パニクる脳内はなんと、円周率を唱え始めた。
だって雨の音と、苦し紛れに発する自分の困惑した声と、合わさった隙間から聞こえる切羽詰まったような吐息と。
同じシャンプーの香りと、強引にも優しい感触と、整った顔と。
そしてありえないくらいの、唇に感じる柔らかさ。
「───…ゆらの初めて。いっこ目、奪ったわ」
今のものが自分にとってファーストキスだったと気づいたのは、唇が離れてから。
「ろく…ごー、さん、ごー……きゅう、」
「ゆら…?なに数えてんの」
「え、えんしゅうりつ……」
「ふっ、ははっ!なんでだよ」
もう、好きだなあって、思った。
この笑顔が見られるなら、自分の想いは叶わなくていい。
それなのにキスされちゃって、幸せを感じていて、やっぱり佳純ちゃんのほうへ行かないでってどうしようもなく引き留めたくもなって。