こじれた俺の愛し方

まだ気付かれずにいてくれるなら…

 夜九時半、彼女と待ち合わせた地元駅の隅。
 俺は十分前に到着し、彼女は約束の時間ピッタリにやってきた。

「黒川さん、おまたせしてすみません!遅くなりました…!」

「…いや」

 そう返事をした俺は平常通りの表情ができているだろうか?

 期待なんかしてはいけなかったのに、彼女よりも早く着いてしまった自分。
 気恥ずかしいと思う気持ちを必死に抑える。

 彼女は本当に申し訳無さそうに頭を下げた。

「私から呼び出しておきながら、本当にすみません…」

 彼女は少し間を空け、もう一度頭を下げて俺に小さな紙袋を手渡す。

「あのっ…黒川さんが食べられるものかが分からないんですが、その……」

 しどろもどろでそう言うと、彼女は下を向いたままになってしまった。

 受け取った紙袋を見ると、それは有名な洋菓子店のもの。

 物なんて、もらったことがない。

「…いいのか?」

 俺は呆然と呟くようにそう言った。すると彼女は俺を懸命に見る。

「…黒川さんにお礼を言いたくて…でも、私は何もできませんから…だから…」

 何も…?
 彼女は現に、礼のためにこの菓子を選びにこの店に行っている。俺のために。

 俺は健気な彼女に良からぬことを考えてしまった。

 彼女をこのまま逃したくない…
 俺への用が済んだ彼女は、きっとまた、ただの他人に戻ってしまう。
 逃さないようにするためには……
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