こじれた俺の愛し方

彼女とのデートで

 それから俺は、ナツを避けることはしなくなった。
 しかしそれでもかなり素っ気ない対応をしてしまうことが多い。


「テイキさん…あの…」

「何?」

 ナツに話しかけられた俺の返しはそれだけ。

 ナツは寂しそうに下を向く。

 一体、どう返せばいいのか…
 俺は困惑のまま、寂しそうに黙り込むナツをただ見つめるしかない。

 本当にそばにいてほしい相手にどう接したらいいのか、俺には分からないからだ。

 逃げられたくない。
 そうは思っても、ナツに見つめられれば目を逸らし、素っ気ない態度を取り、ナツの表情を曇らせてしまっていた。



 ある日ナツの方から、今日はデートで映画が観たいと俺に言った。

 映画館で観るなんて、自分からはしたことがない。

「…テイキさんには退屈かもしれなくて、本当に申し訳ないんですけど…」

 そう恐る恐る言って入ったのは、ヒーリング映画だった。

 緩やかな音楽や自然音、星空や森やら山やらの映像。

 眠くなる…

 俺が眠気を堪え隣を見てみれば、ナツはすでに眠っている。

 なぜナツはこんなものに?
 俺を誘ったのはナツなのに…

 しかし、ナツは眠っている。
 ということは、ナツはいま隙だらけだということ。

「…。」

 無防備なナツ。薄暗い映画館の中。

 今ならナツに何をしても気付かれないだろう。
 人気も落ち着いてきている映画だ、幸いこの近くに客はいない。

 俺は自分の座席からそっと降りて眠るナツの前にしゃがみ込み、ナツをそっと抱き寄せる。
 ナツはよほどリラックスしているのか、穏やかな表情で眠っている。

 ずっと見ていたいが、こんなことは滅多にないはず。せっかくだ、どうしてやろうか?
 いっそこのまま口を塞いで…
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