こじれた俺の愛し方
 ナツは続ける。

「…ごめんなさい…もっと早く、教えて欲しいって言えば良かった…」

 …別れたいなんて、聞きたくない…

 しかし、ナツは俺に穏やかに言った。

「手、握ってもいいですか…?私、テイキさんの手、すごく好きなんです…」

 …俺の、手…?

 ベッドに座る俺の前にしゃがみ込み、俺の顔をうかがいながらそっと俺の手を取る。

「…一人で、一生懸命に生きていたんですね、テイキさん…。私、テイキさんの重荷になっていなければいいけど…」

 ナツは俺の手を自分の頬に、目を閉じてそっと当てた。

「尊敬してます…私のことを助けてくれて、生きるのも頑張るテイキさん…大好きです…。ずっと、そばにいてもいいですか…?」

 前までの俺なら、目の前にいるナツを拒絶かすぐさま奪取か。
 それなのに今の俺は動けず、俺を見つめるナツを見つめ返すしかなかった。

「…逃げないなら、いい…。ナツが俺から、逃げないなら…」

 ようやく俺の口から出てきたのはそんな呟きだけ。

「逃げたりしません…私、テイキさんのそばにいます…。大好きです、テイキさん…」

 …ナツは、どうして俺なんか…

 俺の望んだ、ナツが自分のそばにいること。
 それでも俺は、なぜナツに自分が好かれているのかが分からない。

 しかも俺は、ナツに対して一番大切なことを、今まで一度も言っていなかったということに気付かなかった。
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