こじれた俺の愛し方
 しかしナツはなぜか抵抗も全くせず、俺の腕に収まったまま。

 震えのせいで逃げ出せないだけなのか、それとも…

 俺は混乱のため何もできずにナツの表情をうかがうと、ナツは先ほどよりもむしろ落ち着いているように見えた。

 なぜナツは俺を嫌がらないのか。
 それどころか今は安心したように俺の腕の中。

「…どうして…」

 思わず、低く掠れた呟くような俺の声が漏れる。

 俺は何かを誤解しているのだろうか?
 ナツに尋ねたくても頭の中が混乱していて、一体何から尋ねたらいいのか分からない。
 しかも、自分からこの状況にナツを追い込んでおきながら…

 ナツはまだ俺の胸に顔を埋めている。

 なぜいま俺は何もできないのか…
 このまま力を緩めれば、ナツがすぐにでも俺から逃げ出せてしまうのに…

「…出ていけ…」

 自分の中の混乱を押しのけて俺の口からやっと出てきたのは、そんな言葉だった。

「出ていけ…もういい…!!」

「そんな、テイキさん…!」

 いま一刻も早く自分から遠ざけなければ、俺はきっとナツを捕らえるよりも取り返しのつかないことをしてしまう…

 俺はナツを立ち上がらせると持っていたバッグで体を押しやり、家のドアから外へナツを追い出した。

バタンッ!

 すぐにドアを閉め、鍵を掛ける。

 混乱と焦りと悲しさに胸が潰れそうだった。

 しかししばらくしてようやく落ち着いた俺は、自分がもう二度とナツに会えなくなるだろう過ちを犯してしまったことに、ようやく気がついた。
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