こじれた俺の愛し方

見かけた彼女

 何だか苛つく。
 俺の今いる駅の端で、恋人らしい彼女を振っているその男のことだ。

 他人の別れ話になんて興味はなかったが、立ち止まっていた俺の目に入るような場所にちょうどいたので仕方がない。

 会話は、偶然足を止めた俺の耳にまで入ってくる。

「どうしてアツシさん…!いきなり、別れてだなんて…!!」

 今にも泣きそうな背の低い彼女と、困りきった表情の男の二人だ。

「…お前の御守りをするのは、僕はもう無理なんだ、ごめんな…。バイバイ、いい“お兄ちゃん”を見つけろよ…」

 男の、彼女に対する台詞は子供扱い。
 言い方もまるで幼い妹をあやすかのよう。

 振られた彼女は十代後半くらいだろう。
 去っていく男を見ることも出来ずにメソメソと泣き出す。

 確かに俺と同じ程の年頃だろうあの男からすれば、この彼女では扱いはガキかもしれない。

 しかし、何故か苛つく。
 理由は分からないが。

 俺はらしくもなく、泣いている彼女をそのまま見ていた。
 そして、

「…忘れろよ…あんな男…!」

 俺は投げ捨てるように思わずそう呟いた。

ビクッ

 その振られた彼女は少し離れた俺の声が聞こえたのか、驚いたように体を震わせてからゆっくりとこちらを見る。

 俺自身も驚きハッとなったが、気を取り直して彼女に向かって言った。

「…どこがいいんだ、あんな奴の。あの台詞、あんたをちゃんと見ようとしていない証拠だろ」
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