優しく、そっと、抱きしめて。

プロローグ


 「う、さむ……」

 ぶるっと身震いをするくらいには寒い。
 淡い桃色の薄手のカーディガン一枚羽織った下には白いブラウス一枚のみ。その服装では十分寒いと感じるほどの春先。

 東北から上京して1か月。未だにこちらの気候に慣れることなく、どのような服装をすれば良いのかわからない。桜の花でピンク色に染まった道を歩み続けているとふと目に留まったカフェに足を止める。
 背中側から吹き抜ける風に後押しされるようにカフェのドアに手をかけて、大学の一限までまだ余裕があるんだし、と少しカフェで温まるためにドアを引く。
 ちりん、とドアにかかった鈴が音を鳴らし、カフェの店員がちらりとこちらを見て、「いらっしゃいませ」と静かに声を掛けてきた。

 「あ、…おはよう、ございます」
 初めてのカフェにどぎまぎしながら小さく返事をすると、席へ案内され、私は大人しく椅子に腰を掛ける。
 外観通り、こじんまりしたカフェではあるものの、アンティーク調のおしゃれな内装に委縮するように身を強張らせる。周りを見るとノートパソコンを開きながらコーヒーを飲んでいるサラリーマンや、60歳くらいのおばあさん2人が楽しく談笑している姿が目に入る。私のような学生などいない大人の空間が広がっている。

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