優しく、そっと、抱きしめて。
「小森、です」
ふぅん、と興味なさそうにしつつ、「俺は宮山」と即座に答え、「下の名前は伊織だから好きに呼んで」と付け足す。
「宮山くん、えーと、よろしくね」
苗字を呼ぶだけでも妙に緊張する。こうやって人と話すのも何か月ぶりかなぁ、なんて考えていると、
「で、下の名前は?」
唐突に名前を聞かれて、「絃です」と答える。珍しいね、と言われて、よく言われる、と言葉を交わす。名前で呼んでくれるのかな、と淡い期待をしていたものの、宮山くんは小森さんて、と話し始める。
名前で呼ぶわけではないのか、と思っていたことが顔に出ていたのか、彼はわしゃわしゃと後頭部を掻き、あ~…と声を漏らす。
「名前聞いてきたのに呼ばないんだ、とか思ったでしょ。名前呼びなんてハズイじゃん」
「確かに……、私も急に名前で呼んでって言われても恥ずかしいかも」
そういわれて、私も宮山くんから、「伊織」って呼んでなんて言われても、絶対呼べないだろうと思い、同意する。もう少し仲良くなってからならまだしも、今日初めて会話した相手になんて絶対できない。とわかってはいつつも、素直に恥ずかしい、と口をこぼす彼がなんだかおもしろくてつい微笑む。
「……なに」
私が笑っていたことが気に食わないのか、いかにも不機嫌そうな声を出しているが、私の中の宮山くんに怖いイメージはなく、ごめんごめん、と適当に謝る。
名前を知ったからと言って、私たちの関係は知り合いから友達になれるのだろうか。
気軽に声を掛け合う想像ができず、またもや一人で悩む。もう少し話していたい、と思ったのも束の間、いつの間にかドアの前まで来ており、このドアをくぐれば、今まで通りの生活に戻る、なんてさみしい考えをしてしまう。
「俺は、小森さんとはもう友達だと思ってるよ」
講義室のドアを開ける直前、そう一言告げると、私より一足早く中へ入り、先ほど話していた男の人の元へと戻っていった。
ふぅん、と興味なさそうにしつつ、「俺は宮山」と即座に答え、「下の名前は伊織だから好きに呼んで」と付け足す。
「宮山くん、えーと、よろしくね」
苗字を呼ぶだけでも妙に緊張する。こうやって人と話すのも何か月ぶりかなぁ、なんて考えていると、
「で、下の名前は?」
唐突に名前を聞かれて、「絃です」と答える。珍しいね、と言われて、よく言われる、と言葉を交わす。名前で呼んでくれるのかな、と淡い期待をしていたものの、宮山くんは小森さんて、と話し始める。
名前で呼ぶわけではないのか、と思っていたことが顔に出ていたのか、彼はわしゃわしゃと後頭部を掻き、あ~…と声を漏らす。
「名前聞いてきたのに呼ばないんだ、とか思ったでしょ。名前呼びなんてハズイじゃん」
「確かに……、私も急に名前で呼んでって言われても恥ずかしいかも」
そういわれて、私も宮山くんから、「伊織」って呼んでなんて言われても、絶対呼べないだろうと思い、同意する。もう少し仲良くなってからならまだしも、今日初めて会話した相手になんて絶対できない。とわかってはいつつも、素直に恥ずかしい、と口をこぼす彼がなんだかおもしろくてつい微笑む。
「……なに」
私が笑っていたことが気に食わないのか、いかにも不機嫌そうな声を出しているが、私の中の宮山くんに怖いイメージはなく、ごめんごめん、と適当に謝る。
名前を知ったからと言って、私たちの関係は知り合いから友達になれるのだろうか。
気軽に声を掛け合う想像ができず、またもや一人で悩む。もう少し話していたい、と思ったのも束の間、いつの間にかドアの前まで来ており、このドアをくぐれば、今まで通りの生活に戻る、なんてさみしい考えをしてしまう。
「俺は、小森さんとはもう友達だと思ってるよ」
講義室のドアを開ける直前、そう一言告げると、私より一足早く中へ入り、先ほど話していた男の人の元へと戻っていった。