優しく、そっと、抱きしめて。
 「えっ、わ……!み、宮山くん……!?」

 驚いて声を上げると、眠そうに欠伸をしながら、あの時と同じように、横に詰めてと、しっしと手を払う。慌てて横に移動すると、どかっと隣に腰を下ろし、もう一度欠伸をする。

 「……バイトは?」

 以前、宮山くんの友人に言っていた通り、宮山くんは基本昼過ぎに大学に来て講義を受けることが多い。なんでも午前中はバイトがあるらしい。けれども、午前から講義を受けることもあると友人と話しているのを聞いたことがある。

 しかし、私と宮山くんとでは一緒の講義を受けることはあまり多くないため、私はあまり宮山くんと顔を合わせることもない。

 「休み。今日も一人?」

 食べかけだったサンドイッチを頬張り、ペットボトルのお茶で流し込む。時間を見ると、まだ40分ほど時間に余裕がある。前より話せるといいな、と思いながら、「変わらず、ですね」と苦笑いしながら言葉を返す。

 「へえ、じゃあ友達はまだ俺一人ってわけだ」

 足組をして、膝の上で手を組みながら、視線はまっすぐ、廊下を見ている。私と宮山くんが初めて話した自動販売機があるあの廊下。私も同じように廊下に目を向けて、恥ずかしながらそうだね、と伝えると、ふふ、と意地悪そうに隣で微笑む。
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