優しく、そっと、抱きしめて。
 「なんか、こう、一から友人関係築くのって難しくないですか……」

 思わず敬語で彼に問いかけると、う~んと声を唸らせ、まあ、と私に同調する。彼も私と同じコミュニケーションを取るのが苦手だと本人が言っていたし、私自身同じだと思っていたが、今思えば、それは間違いのように思う。

 彼の周りにはいつも人がいる。決してクラスのムードメーカー的な存在ではないものの、彼の言動、雰囲気が人を惹きつけているためか、彼がひとりでいるところを見たことがない。連絡先教えて、と可愛い女の子に声をかけられているのを見たことがある。が、彼はそんな彼女にただ一言、「面倒くさい」と言ってのけていた。

 彼のコミュニケーション不足を、彼自身の魅力がカバーしているんだと思う。それくらい、私も惹かれるほどに、彼自身には何とも言えない、不思議な魅力がある。

 「小森さんて、地元こっちじゃないの?」

 何気ない彼の一言でも、ぶっきらぼうで人に興味のなさそうな言い方でも、それでも彼の声と雰囲気が、それを冷たく感じさせない。

 「こっちに上京してきたんだよね、地元は東北」
 「へえ、そう」

 彼の欠伸も相まってより一層興味がなさそうに感じる。地元が東北、となると少しくらい興味持つかなと思っていたが、彼はあまり興味を示さず、何か話題ないかな、と最近の出来事を思い出すも、特に面白いエピソードが思いつかず、言葉が詰まる。

 「……小森さんてさ」

 「なんでしょう」

 そんな私をつまらない、と言って、離れるわけでもなく、ただ彼が何となくで言葉を発する。無理に言葉を紡がなくてもいいよ、と言われているみたいで、心地よく感じる。

 「ん、いいや。あのさ、連絡先教えて?」
< 15 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop