優しく、そっと、抱きしめて。
 そこからはそのまま他愛のない話をして、宮山くんが一人っ子だということ、今日のお昼はカップラーメンを食べたこと、誕生日が私と同じ月だったこと。
 それから、彼の趣味はカフェ巡りで、コーヒーが大好きなこと。好きな食べ物は肉。そんな、どうでもいい会話を繰り返した。けれど、今まで知らなかった彼の一部を知れて、嬉しさから緩くなる口元がばれないように、横髪で顔を隠しながら俯く。

 「小森さんは、一人で上京してきてさみしいって思わないの?よくいうじゃん、ホームシック」

 会話がひと段落着いたところで、最初の話題に戻る。興味なさそうだったため、覚えていたんだ、と感心しつつ、寂しくはない、といったらうそになるけど、と言葉を止める。

 「……けど、帰りたいとも思わないな」

 重くならないように、田舎だし、と笑い飛ばすも、なんで?と真面目なトーンで聞き返してくる。純粋に不思議そうな顔をしながら、いつもは合わない目が、まっすぐ私を見つめる。

 言おうか迷う。きっと、どんなテンションで話しても重くなる。まだ話して2回目の彼に、そんな重い話をしたくない。かといって、話したくない、と断って、雰囲気を悪くもしたくない。
 
 なんて言おうか、と言葉を詰まらせてると、言いたくないなら聞かないよ、といつもより、少し優しい口調で言った後、私の返事も待たずに、続ける。

 「俺、小森さんとは友達だって思ってるよ。だから見かけたら声かけてくれてもいいのに」
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