優しく、そっと、抱きしめて。
 「まあ、でも声かけづらいだろうし、これ、あるから暇なとき連絡してよ」

 彼は立ち上がり、”これ”と先ほどのアプリの画面を見せる。そこにはお互いが送った「よろしく」のスタンプだけが表示されている。

 「友達いないから、毎日暇してるけど…」

 「へえ、じゃあ毎日連絡くるわけだ、楽しみにしてるわ」

 悪戯っ子のように笑う彼に目を奪われる。そして私が連絡しやすいようにしてくれている心遣いに、私はわかりやすくうれしくなる。

 私が一人でさみしそうにしていたのを、彼は、宮山くんは、見ていたのだろうか。
 恥ずかしいと思いつつも、今こうやって話かけてくれたこと、連絡先を教えてくれたこと、いつでも連絡していいと言ってくれたこと、全部に、私は体が蕩けそうなほどに嬉しくなってしまう。
 
 じゃあね、と背中を向けて、ひらひらと手を振る彼の後ろ姿を見るだけで、鼓動が早くなる。

 違う、これは恋じゃない。恋じゃない。そう言い聞かせながら、私も次の講義室に向かってベンチから立ち上がる。
 
 
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