優しく、そっと、抱きしめて。
 「お決まりですか」
 白いワイシャツの袖を肘くらいまで捲り、腰には黒いギャルソンエプロンを巻いている。少し茶色がかった猫毛の柔らかそうな髪の毛。センター分けにしている前髪から覗く目は伏せられており、目が合わない。
 慌ててテーブルの上にある小さなメニュー表に目を通し、「この、ホットコーヒー一つ、お願いします」とおずおずと指先をメニューのほうへ向ける。ちらりと一瞥すると「かしこまりました」と一度も目が合うことなく、彼は足早に私の元を去っていく。

 「……歳、同じくらいなのかなぁ」
 少し猫背な彼の背中を見送りながらそっと呟く。こういうカフェはおじいちゃんやダンディーな男性が働いているイメージであったため、彼のような若い人が働いていることに少し驚く。物静かそうで、人付き合いが得意ではなさそう、といった第一印象を抱きつつ、私も同じか、と他人のことをとやかく言えるほど自分自身も人とのコミュニケーションが得意ではないことを思い出し苦笑いする。

 しばらくするとテーブルに白いティーカップに入ったコーヒーが置かれ、白い湯気とともにコーヒーのほろ苦い香りが漂う。すう、と静かに息を吸うとコーヒーの香りが胸いっぱいに広がる。

 先ほどまでの緊張はもうそこにはなく、窓から見える桜道を眺めながらティーカップを手に取り、ゆっくりと口に運ぶ。その後ろで来客を知らせる鈴の音が鳴り、私の横を若い女性と先ほどの男性店員が素通りし、私から少し離れた席に若い女性が腰を下ろす。

 後ろ姿から分かる綺麗な女性。彼に微笑みながら慣れた様子でコーヒーを頼む横顔は誰が見ても、綺麗、と思いような顔立ち。長い髪の毛は真ん中くらいから緩くウェーブを描き、指通りの良さそうと遠目から見ても思うほどに綺麗に整えられている。

 
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