優しく、そっと、抱きしめて。
 「宮山くん」

 小走りでベンチの近くまでいき、そっと声をかけると眠そうに目を擦りながら、重そうに瞼を開いた目と合う。恥ずかしくなって目を逸らすと、帰るか、と一言告げて立ち上がる。

 「私のこと待ってたの?」

 そう聞くと、メッセージ送ったでしょ、と当たり前のように返ってくる。ふわっと欠伸をして、両腕を上にあげて伸びをする。今日たくさん話せただけで、私は十分すぎるほど幸福感に包まれていたのに、これから宮山くんと二人きりで、帰る。それを創造するだけで、どくん、どくん、と静かに、しっかりと鼓動が鳴る。

 可笑しい。おかしいよ、こんなの絶対。

 友達になったばかりなのに、なんでこんなにも、鼓動がうるさくなってしまうんだろう。

 ーーー好き。

 ふと、その言葉が浮かんだ瞬間、全身が沸騰したかのように熱くなる。幸い、あたりは少し暗くなり始めているため、真っ赤になっている肌に、彼は気づかないだろう。

 「帰らないの?」
 
 ベンチから立ち上がってもなお動こうとしない私の顔を、彼がのぞき込む。
 前までは、一切目が合わなかったのに、なんでこんなにも彼と目が合うのだろう。

 ”好き”という言葉が浮かんでから、私は今まで以上にどう接していいのかわからなくなり、バレたくない、という気持ちから、不自然なほどに顔を横に振り、彼から目を逸らす。

 「か、かえろっか」

 変なの、とつぶやいた彼の言葉が、耳に残る。

 

 
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