優しく、そっと、抱きしめて。
 ーーーあれは、高校一年生の二月ごろ。

 「やっぱりさ、付き合おうよ」

 高岡恭介(たかおかきょうすけ)。テニス部の三年生の先輩。
 高岡先輩のテニスをしている姿は様になっており、女子から黄色い声がよく上がっている。先輩と関わることは少なかったけれど、同じ部活なだけあって、たまに話すことはあった。
 
 そんな女子から人気の高い先輩から、告白されたのだ。

 もちろん、私もかっこいいとは思っていたものの、それはただのあこがれであって、恋愛という意味で先輩を好きなわけではなかった。一度目の告白には、「私では、彼女にふさわしいと思わないんです。なので付き合えません」という中途半端な答えをしてしまったため、その一週間後に、再度先輩から告白されてしまった。

 「この間も言いましたけど、私じゃ……」

 じりじりとにじり寄ってくる先輩から距離をとっていたものの、トン、と背中に冷たい感触があり、もう壁まで追い詰められていたことに気づく。
 先輩のこと好きじゃない、とはっきり言えればいいものの、なんとなく言いづらくて、どう断ろうか悩んでいたところ、先輩が口を開く。
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