優しく、そっと、抱きしめて。
 「俺じゃダメな理由、聞いてもいい?」

 いつもの優しい声色。にっこりとほほ笑む顔も、いつものさわやかな先輩だ。嫌という気持ちはないし、こんなにかっこよくて、優しい先輩と付き合える女性はきっと幸せなんだろうな、とも思う。

 けれど、私は先輩のことを、異性として意識したことはない。恋愛的な意味で好きになったこともない。そんな中途半端な気持ちで、付き合うだなんて失礼なこと、とてもじゃないができない。

 「私、その、異性として意識したことなくて……。あ、えっと、かっこいいな、とは思うんです。だけど、恋愛的な意味で好きかと聞かれると、それとも違うなって。先輩として憧れ、といいますか、その……」

 不安そうに眉を下げ、私の言葉に耳を傾けていた先輩は、なんだ、とほっとしたように胸を撫でおろし、また笑顔になる。

 「嫌いなわけじゃないんだね、よかった」

 そういって、私から少し距離をとる先輩。ああ、よかった、と理解してくれたことにこちらも安心する。じゃあ、すみません、と頭を下げて立ち去ろうとすると、先輩が私の腕を掴む。
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