優しく、そっと、抱きしめて。
 ゴールデンウィーク。

 部活も休みになり、私は連休一日目の夜。お風呂に浸かりながらスマートフォンを見ていると、先輩からメッセージが届いた。「今時間ある?」とのメッセージに既読をつけると、私の返事を待たずして、通話がかかってくる。

 「え!?せ、先輩、こんばんは」

 驚きながらも返事をすると、先輩は少し間をおいて、もしかして風呂入ってる?と聞いてくる。そうです、と返事をすると、そっかごめんね、と言いつつ、通話はつなげたまま、先輩が明日の予定を聞いてくる。

 「明日さ、よかったら俺の家にこない?」

 「先輩の家、ですか」

 先輩と付き合ってから、デートをしたことがない。そんな中、いきなり家にお邪魔するのは気が引けるものの、告白をOKした手前、断りづらい。わかりました、と返事をすると、風呂の最中ごめんね、あとで連絡する、とすぐに通話を切り上げた。

 「こういうところは優しいんだけどなぁ……」

 浴槽の中で膝を抱えて、お風呂に口元まで顔を入れて、ぶくぶくと息を抜く。

 節々から感じる先輩の強引さがどうしても引っかかってしまい、好きになれずにいる。今の通話でさえも、私の返事を聞く前にすぐにかけてくるあたり、胸に引っかかる。
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