優しく、そっと、抱きしめて。
 大学につくと、もう既に人が集まっており、私の定位置となっている空いている後ろの端の席に座り、テキストとノート、ペンを鞄から出すと、スマートフォンを手に取り、SNSに目を通す。

 SNS上にも自分の居場所はない。結局何をするでもなく、ただニュースに目を通してはアプリを閉じ、読みかけの小説を開いて続きを読もうにも、集中できず、画面を閉じて、肘をつきながら窓の外を眺める。

 講義自体は楽しいわけでもないが、つまらないわけでもない。もともと新しい知識を学ぶこと自体嫌いではなかったため、ただ話を聞くだけでも、苦痛とは思わない。
 
 少し小太りのでも優しそうな風貌の教授の話に耳を傾け、ひたすらノートにペンを走らせる。左手の薬指を確認してしまう癖は、ここ最近ついた癖だ。

 友達も恋人もいない自分は、いつの間にか、「あ、この人は結婚しているんだ」と無意識に見てしまうようになった。そうして、この人は一人じゃないんだ、と自分と比べて、うらやましい、と思う気持ちがこみ上げ、ばかばかしくなる、を繰り返している。

 午前中の講義が終わり、私はノートを閉じるとそのままカバンへしまい、カバンを持ち上げると講義室から出て、そのまま中庭へと向かう。
 昼下がりの心地よい日差しに目を細めながら、今朝コンビニで買ったサンドイッチを開け、口へ運ぶ。片手でスマートフォンの画面を眺めるも、やはり何かをするわけでもなく、ベンチの背もたれに体重を預ける。

 「友達、ね……」

 はあ、と深いため息をつき、食べ終わったサンドイッチのごみをゴミ箱へ捨てると、少し大学を探索した後、次の講義室へと移動する。

  残りの講義はあと2個だけだ、と思いながら、小さく伸びをしていると、少し離れた席で男の人が楽しそうに話している内容が耳に入り、ちらりとその方へ目を向ける。

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