優しく、そっと、抱きしめて。

　「ん？何、知り合い？」

　先ほどまで彼と話していた男の人が首をかしげながらこちらへと視線を向ける。話すのが得意な人であれば、「さっきカフェで合ったんです」なんて軽く言葉を交わすのだろう。けれど、私にはそんな一言すら伝える余裕はなく、二人の男性から一斉に目を向けられ、恥ずかしさと申し訳なさで顔が紅潮していく。

　「……あぁ、知り合いっていうか、朝、バイト先に客として来てただけ。同じ大学だって知らなかったからびっくりした」
　「なあんだ、そんなことか、そういえば」
　話題が移り変わり、もう彼らの興味は別のものに向き、ほっと胸を撫でおろすものの、友達作りのチャンスを逃したことへの悲しみで落ち込む。講義が始まるまでまだ時間があることを確認すると、お財布とスマートフォンだけ手に持ち、そっと講義室から抜け出す。

　中庭とつながっている廊下へと出ると、中庭で楽しそうに話している男女や、友達と会話で上がる人たちを背にして、自動販売機で缶のブラックコーヒーを買い、廊下に置いてある木のベンチに腰を掛け、白い天井を見上げる。

　全てを捨てて、上京してきたのに、なんというありさまなんだろう、と情けない気持ちを流すように、缶を開けてコーヒーを流し込む。
　昔から人と話すのが苦手だったわけではない。あんなことがなければ……

　「ねえ」