優しく、そっと、抱きしめて。
 突然声をかけられて、落としそうになった缶を両手でしっかりと持ち直すと、いつの間にか自動販売機の前に先ほどの、カフェで出会った彼が立っていた。
 「わ、え、……えっと……?」
 声をかけられてびっくりしたことも相まって、より一層頭が真っ白になり、何を話せばいいのかわからなくなる。それに、彼がなぜ声をかけてきたのかがわからない。
 彼の手にも同じ缶コーヒー。カフェの店員をするくらいだから、コーヒーが好きなのかな、なんて考えていると、「ん」と一言だけ声を発し、しっし、と手を払われる。多分、ベンチの端に寄れ、という意味なのだろう、と思った私は、端へ身を寄せると、思っていた通り、彼が私の隣…といっても一人分開けて隣に座った。

 「俺もだけど、あんたも大概よな」
 なんのことだろうと、首をかしげていると、彼が長いため息を吐く。居心地の悪さから、早くこの場から立ち去りたいと思いつつ、なんで声をかけてきたのか不思議で知りたいと思い、その場から動けずにいると、彼は更に私へと話しかけてくる。
 「コミュ障」
 「あー……、はは」
 一言、「コミュ障」と言われ、私は返す言葉がなく、ただ笑うことしかできなかった。冷たい人、というよりなんとなくぶっきらぼうで、他人に興味がない、と思わせる雰囲気。彼の声も相まって、素っ気なさも感じられる。

 「いや、まあ、別にいいんだけど。……あんた友達いないの」
 「うん、なんというか、タイミングを逃しまして」
 一度も目は合わず、お互い手元の缶を見つめながら言葉を交わす。
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