優しく、そっと、抱きしめて。
 「まあそうでしょうね。あんたの周りいつも誰もいないし。……あー、ほら、いつも座ってる席。後ろで端で、周りに誰も座ってないから、目立つんだよね」
 そういわれて、驚いて口を開く。目立たないように端に座っていたものの、かえってそれが目立っていたとは思いもよらず、急に恥ずかしくなる。
 「えっ……嘘、……ほんとに?」
 ふっと、隣から笑うように息が抜けた。
 「ふ、……いや、目立ちまくり。騒いでいる人たちより、目立ってる」
 「え、いやいやいや!じょ、冗談!……えぇ……嘘でしょ」
 思わず大きくなった声を抑え、信じられない、と顔を覆って背中を丸める。ということは、今まで他の人から「あの子、一人でかわいそう」なんて哀れみの目で見られていたのだろうか。私のイメージだと、「一人でも平気よ」っていう強い女性だ。そう周りから思われるように、一人平然と座っていたのだ。

 実際のところ、一人さみしく、哀愁の漂う姿だったかもしれないが、それでも目立たないように端に座っていた。

 「いや、半分冗談。ただ俺は、こいついっつもぼっちだなぁ、って」
 誰の記憶の隅にも残らない。誰も気にしない存在だと、自分で言っても悲しくなる言葉ではあるものの、そんな存在だと信じて疑っていなかった。にもかかわらず、その独りぼっちの存在が逆に彼の記憶の片隅に残るほどのさみしそうな姿として他人の目に映っていたとは思いもしない。

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