冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
そんな詮ないことを、白無垢に身を包んだ私は、窓の外の満開の桜をじっと見つめながら考える。
お見合いしたのとはまた違う、都内の最高級ホテル。
私と芳賀さんは、ここで披露宴を執り行うことになった。
決めたのは私の祖父である黒部総理や、芳賀さんのご親戚のようだった。
披露宴のみで結婚式自体はしない、と決めたのは、芳賀さんなのか、それとも別の誰かなのか。
芳賀さんとの婚約期間は半年ほどあったけれど、その間一度も会わなかった。
会わないどころか、連絡すら取らなかった。
けれどその間にも工場は経営が立て直され、文人も無事に大学へ入学した。
もしかしたら、シンデレラストーリーなのかも、と思う。
ううん、きっとそうなんだろう。
下町の町工場の娘が、実は総理大臣の孫娘で、ピンチを脱して信じられないほど素敵な男性に嫁ぐ。
私は文句を言える立場にいない。
……たとえ結婚披露宴に、夫がいなくとも。
披露宴が行われているホテルの大会場には、招待客があふれかえらんばかり。
天井まであるはめ殺しの大きな窓の向こうは、桜と桃が咲き誇る。
桃源郷と見紛わんばかりの光景だった。
招待客はすべて黒部総理の関係者と、芳賀さんの関係の方だ。新郎不在の金屏風が置かれた高砂席に、さまざまな視線が向けられる。
興味津々であったり、新郎の不在を憐れむものであったり、嘲るものであったり。
私は孤独に唇を噛み締めた。
隅のテーブルで、文人が私以上に顔を蒼白にしている。
文人の眉間に強く皺が寄っていて、慌てて笑顔で手を振った。
大丈夫だよ、と口パクで伝える。
文人が泣きそうな顔をしたとき──ふ、と私の前に誰かが立つ。
顔を上げると綺麗な女性が立っていた。
艶やかな振袖は、金糸が鮮やかな白。模様はほとんどない。
つい、息を呑んだ。
もちろん、結婚式に招待されて白の振袖を着ることはまったく問題ない。
振袖は振袖で、色に左右されるものではないから。
けれど、見上げた先にあった敵意に満ちあふれた瞳に、これが「あえて」のものだと確信せざるをえなかった。
「あなた程度が直利さんの妻だなんて」
鈴の音のような綺麗な声は、私を嘲弄しながら言葉を紡ぐ。
「──あの?」
心臓がざわついた。なんでこんな、初対面で敵意を剥き出しにされなくてはいけないのだろう?